もう一度、愛してくれないか

「……あっ、そうだっ」

急に思い立ったのか、クロスボディにしているエルメスのボリード1923・ミニからスマホを取り出した。このオレンシポピーのバッグは、去年の紗香の誕生日にプレゼントしたものだ。

……そういえば。

今年の三月末には忙しくて東京に帰れなかったから、誕生日のプレゼントを贈っていなかった。

やっぱり、紗香が大阪にいる間に、なにか買ってやらなければ。ちょうど今月は、結婚記念日もあるし……奮発するとしよう。

彼女は窓の外に見える景色を、スマホで盛んに撮り始めた。

眼前には大阪平野が広がり、南にはあべのハルカスや通天閣、東には奈良との県境にある生駒山、西には淡路島に続く明石大橋が見える。

おれもポケットからスマホを取り出す。
だが、景色は撮らない。

おれが照準を合わせるのは……

「……紗香」

声をかけると、彼女が微笑みながら振り向いた。

シャッターチャンスにすかさず、iPhoneのホームボタンを押す。

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