もう一度、愛してくれないか
その時、ゴンドラが頂点に達した。
おれは紗香の小さな顔を、スマホを持たない手で包み込んだ。
「……『サムライ』の香りがする。
ずっと、変わらないわね……あなたの匂い」
紗香が、ふふっ、と微笑む。
ジャスミンやローズのフローラルからレッドペッパーのオリエンタルを経て、今はシダーウッドやサンダルウッドにほんのりバニラの甘さが加わった香りへと移行していた。
おれは、ゆっくりと紗香のくちびるに自分のくちびるを重ね合わせた。
彼女のくちびるがおれに応える。
おれは開きかかったそのくちびるの隙間に舌を差し入れて、彼女の舌をさぐった。
ところが、紗香の舌に触れた、と思った瞬間、しなやかに逃げられる。
おれはさらに深く、舌を侵入させた。
そして、逃げ場がなくなるまでその舌を追いつめ、とうとう捕まえる。
紗香の舌は、とろけるようにやわらかかった。
このままずっとこの感触を味わっていたいと思った。
だが、ゴンドラは情け容赦なくどんどん下りていく。
もうすぐビルの中へ吸い込まれていく、というところで、互いのくちびるを離した。