もう一度、愛してくれないか
♤Chapter 1♤
「……ということなんですけどぉ、上條専務ぅ」
グランフロントの近くのヒルトンプラザイーストにある中国料理店に、部下たちを連れてきていた。横浜の中華街に本店のある老舗の店だ。
中華街の本店は競争が激しいからコスパがいいのに、ここ大阪ではえらい強気な価格設定だな。
豊川は、ずいぶん仕事で鬱憤が溜まっているみたいだった。
秘書の伊東と出先からオフィスに戻ったとき、定時でとっとと帰った三人の先輩たちの分まで、豊川は仕事をしていた。
そのとき、生気の抜けた顔をしていたので、今日は木曜日で明日も仕事だが『奢ってやる。美味いもの食いに行こう』と伊東も誘って、ここに来たのである。
初めは『わたし、下のジュンク堂までしか来たことないんですよ〜!』と豊川のテンションはやたら高かったのだが。
いや、コース料理を食べ終えて『仕事でなにか困ったことはないか』と訊くまでは『美味しいですっ。中華ってこんなに繊細でお上品なお料理やったんですねぇ〜』とご機嫌だったのだ。
伊東も豊川も、今春大学を卒業してあさひ証券に入社した一人息子の大地とそんなに年齢が変わらないから、おれにとっては子どものような世代だ。