卒業
第一章 友達
『ねぇ、ねぇ、これどお?』
「んー」
『ねぇ、ちょっとつけてみてよ』
「えー」
『ね、ね、ほらっ』
私は見たこともない派手なネックレスを手渡され、否応なしにつけるはめに。
私には似合うことの無い派手なネックレス。
『いいねぇ~』
そう言って、目をくりくりさせて大袈裟に誉めてくる彼。
「ね、もうはずすよ」
そう言って私は重たくて派手なネックレスをはずし、ショーケースの向こう側でニコニコ笑顔を振り撒いているキレイな店員さんに返した。
店員さんは私たちのことカップルと思ってるかな……
今、私の横で女性向けのネックレスを物色しているのは私の親友、瀬野尾くん。
今日は瀬野尾くんに呼び出され、彼女に内緒でネックレスを贈りたいからと、ネックレス選びに付き合わされた私。
いったい今度はどんな女性なのか。
こんなに派手なネックレスが似合う女性って……。
きっと私とは比較にならないほどのゴージャスな美人なのだろう。
『ねぇ、ねぇ、これは? これもかわいいよね~』
そう言って瀬野尾くんはまた違うネックレスを店員から受けとり私に見せる。
「あー」
『ね、つけて、つけて~』
そう言うと瀬野尾くんがネックレスを渡してきた。
「えーまたー」
『ほらっ、はやく~』
嬉しそうに可愛い顔でせがまれるから断れない。
私はしぶしぶネックレスをつけてみせる。
『あっ!いい~!こっちの方がいいねぇ』
「そお、じゃあこれにしたら」
『そうしよぉ~っと』
まただ。
買い物に来るといつもこう。
自分で決めないんだよね。
いつも私に決めさせる。
贈り物って大切じゃない?
本当にこんなんで彼女さんは喜ぶのかしらね。
瀬野尾くんがラッピングについて店員さんとあれこれ話をしている。
私の役目は終わったね……。
ひとり店内を見渡していると、可愛らしいアクセサリーのコーナーを見つけた。
小さな誕生石をあしらったネックレスやリングが華奢なデザインだけれど品よく輝いていた。
瀬野尾くんを見ると、まだ店員さんと話し込んでいる。何やら楽しそうにね……。
このまま口説き落としそうな勢いを感じる……。
たくっ、キレイな女の人にはいつもこうだ。
ま、よく言う女好きなんだよね、瀬野尾くんは。
でも、瀬野尾くんかっこいいから。
ほら、店員さんも嬉しそうに瀬野尾くんを見つめている。
そんな瀬野尾くんを放っておいて、私は誕生石のアクセサリーを眺めた。
私の誕生石は……
あ、あった。
可愛いなぁ……
見ているだけで幸せになる。
中でもネックレスが素敵。
誕生石を身に付けていると幸せになれるっていうよね。そろそろ私も誕生石を身に付けないとダメかな……
『お待たせ~』
ポンッと肩を叩かれて振り返ると、可愛らしい紙袋を持った瀬野尾くんがニコニコと可愛い笑顔で立っていた。
「もういい?」
『うん、オッケ~』
お店の人に見送られた私達。
お店のドアから出るときに、さりげなく瀬野尾くんはドアを手で押さえてくれる。
そして、優しい笑みを浮かべ
‘’ほらっ出な‘’ とでも言うような
アイコンタクト…………
私はこの瞬間がたまらなく好きだ。
私たちはお店を後にした。
その時も、店員さんたちが瀬野尾くんを、うっとりと見つめているのを見逃さなかった。