卒業
『ここ、ここ~』
ふと聞き覚えのある声に体かぴくりと反応した。
教室に5、6人の男子が入って来た。
瀬野尾くん…………
『えっ?なんで一人?ってか当番午前中だったっしょ』
不思議そうな顔で私を見る瀬野尾くんに、このあまりにも寂しい状況を知られたくなくて……
「あ、みんな今、トイレ…………」
慌ててそう言いつくろった。
瀬野尾くんは、ふぅーんと言うと、友達とどのパネルにするとか、このパネルは作るのに時間がかかったとか、たくさん楽しげに話した後、ようやくパネルを決めた。
そして、私を見ると、手でおいでおいでをした。
その仕草がまるで子猫のように可愛くて、私はキュンとした。
カメラを片手に瀬野尾くんのグループの前に行く。
そして、私は瀬野尾くんに教えてもらったように、カメラを構え、レンズ越しに瀬野尾くんを見た。
6人がうまく入るように調整する。
「撮りまーす」
そう、声をかけたとき
カメラのレンズ越しに瀬野尾くんが、こちらを向いてウィンクした。
え………
私は突然のことにドキッとし、その時に手振れをしてしまった。
「あ、あの、すみません、もう一回お願いします!」
私は瀬野尾くんたちに謝り、もう一度カメラを構えた。
瀬野尾くんがクスクス笑っている 。
………………
今度は瀬野尾くんもふざけず、みんなとにこやかにポーズを決めてくれ、しっかりと撮ることが出来た。
ほっと安心する私。
すぐに写真を印刷し瀬野尾くんたちに手渡した。
『ありがと~』
そう言うと瀬野尾くんたちは、ワイワイいいながら教室から出ていった。
急に静かになった教室で一人、さっきの瀬野尾くんのウィンクを思い出し、顔がカーッと熱くなり、いまさらだがドキドキして胸が苦しくなった。