卒業
「お待たせしました。」
オムライスがふたつ持ってこられた。
そして、チョコレートのデザートがひとつ。
ん?
注文していないよね?
と、私の不信がる様子が店員さんに伝わったのか
「こちらは、本日カップルのお客様向けのサービスとなっております。上は生チョコアイス。下はバニラシェイクになっています。溶けた頃にストローで混ぜてお召し上がりください。」
そう言って、最後に最高のスマイルを置いて、店員さんは去っていった。
私と瀬野尾くんの間にポツンと置かれたひとつのチョコレートデザート。そこには、2本の赤いストローが仲良く差してある……
…………カップルね…………
うん、大丈夫
慣れてるから
よくある
10年よ!
10年も一緒にいたらね
ペアストローとか……
よくあるから……
うん、ある……
大丈夫、慣れてるから
『甘いのはいいやぁ~。これあげる~。』
そう言って瀬野尾くんは、目の前のチョコレートデザートをずずずっと私の方へ差し出した。
「あ、ありがとう」
ちょっと安心する私。
『いただきま~す』
そうかわいく言うと、嬉しそうにピタンっと両手を合わせていただきますをする瀬野尾くん。
こういうとこ。
こういうとこ。
行儀がいいとこ、好きなんだな。
一口オムライスを食べた瀬野尾くんは目をくりくりさせて、リスみたいに口の中パンパンにして何か言った。
んぐんぐ、んぐ~!
口に入れすぎ!
この顔、何回見ても可愛いなぁ。
私は瀬野尾くんの食べているときの顔が大好きだ。
ようやく飲み込めた様子の瀬野尾くん。
『トロットロ!卵ふわっトロ!』
女の子みたいなプルプルの唇に卵をつけて、嬉しそうに私に教えてくれる。
子供か(笑)
私もオムライスを一口食べてみた。
んー!
「おいしい! 本当にトロットロ~」
『でしょ、でしょ~』
そう言うと瀬野尾くんはまた、たくさん口のなかにオムライスをいれ、幸せそうに天を仰いだ。
私達はあっという間にオムライスを完食した。
満足そうにお腹をさすっている瀬野尾くん。
こういうポーズが妙に男っぽいというか……
気づくとまた瀬野尾くんの足が大股開きになって、私の足にくっついている…………
私はドキドキを隠しながら
「あ・し」
と言うと
『あ、はいはい』
と瀬野尾くんはいたずらっ子のような笑みでのんびりと足を閉じた。
さて、わたしはデザートをいただこう。
チョコレートアイスをストローでつついて、バニラシェイクと混ぜて食べてみた。
「ん!おいし~い!」
チョコレートの苦味とバニラの甘さがちょうどいい。
何やら右から視線を感じた私。
チラリと横を見ると、頬杖をつきながらじっとこちらを見つめる瀬野尾くんがいた。
近いっ!
「ちょっと、何?! え、デザートいらないって言ったよね?」
想像以上に瀬野尾くんの顔が近くて驚いた私は、少しドキドキしてしまった。
だって瀬野尾くんの目付きがあまりにも色っぽくて……
『うん、いらなーい。見てるだけー。』
「いや……そんな顔で見られたら欲しいのかと思うでしょ」
私はドキドキしていることがバレないように、デザートを無心に食べた。
そう、よくある。
私が瀬野尾くんの行動でドキドキしちゃうこと。
予想もしない行動とるからね。
うん、でも大丈夫。
慣れてるから。
そう自分に言い聞かせて、もくもくとデザートを食べた。
その間もずっと、瀬野尾くんは頬杖をついてじーっとチョコレートデザートを見ていたのを私は知っていた。
ただ、私は気づかないふりをしていた。