卒業
『ねえねえ、こっちのドリンクも頼まない?』
朝倉くんがトントンと肘をつついて話しかけてきた。
私は慌てて朝倉くんが手にするドリンクメニューを覗きこんだ。
私はドリンクメニューを見ていたけれど、頭のなかは、さっき見た、瀬野尾くんの哀しげな目でいっぱいになっていた。
『………………でさ、どう思う?』
「……あ、ごめん、ちょっと聞いてなかった……」
朝倉くんが何やら楽しげに話しかけてくれていたのに、私は全く聞いていなかった。
もう瀬野尾くんのことが頭から離れない。
瀬野尾くんがいるということは、私はあの決断を決行しなくてはいけない。瀬野尾くんにお別れを告げなくてはいけない。
でも、さっき瀬野尾くんを見たら気持ちが揺らいだ。
やっぱり……
このまま側にいたい…………
どうしよう…………
終わりなんてやだよ………………
どうしよう…………
『どうした?酔ってきちゃった?』
きっと私がボーッとしていたのだろう。朝倉くんが優しく声をかけてくれた。
でも、その優しさが引き金になったのか、私は急に鼻の奥がツンとなり、じわっと涙が溢れてきそうになった。
ダメだ…………
「ごめん、ちょっとお手洗い……」
朝倉くんが心配そうに私を見る。
お願い、そんな目でみないで……
私は席を立つとお手洗いへと向かった。
泣くな、泣くな………
私は自分にそう言い聞かせた。