卒業
瀬野尾くん……
瀬野尾くんが両手をズボンのポケットに突っ込み、ゆっくりとお店から出てきた。
ふいに現れた瀬野尾くんに、私はまた胸が苦しくなった。
目が合わせられない……
下を向く……
次の瞬間、私は大きな影に隠れた。
朝倉くんが私の前に立ちはだかったのだ。私を自分の背中に隠すようにして。
…………朝倉くん
…………朝倉くんは何か感づいているのかもしれない
………………
「よ!瀬野尾、久しぶり」
朝倉くんが片手をあげあいさつをする。
『あー朝倉。 え、まじで、あの朝倉?』
瀬野尾くんのいつもの緩くて少し高い声が聞こえる。
……………久しぶりに聞いた、この声……
「瀬野尾は変わらないねー。よっ人気者!昔からモテモテで女に困らなくてさ、羨ましいよ!いったい何人泣かせたのかねー。」
……………………!
…………朝倉くん何を言ってるの!?
口調は優しいが、まるで喧嘩を売っているように聞こえるのは私だけ………?!
『そういう朝倉も、昔はバリバリだったよねー。あれっ?ド派手な金髪やめちゃったのー? お似合いだったのにー』
「いやぁー、瀬野尾と違って俺は大人になったからねー。」
……なんか、なんか険悪ムード?!
……どうして?!
すると朝倉くんが、さらに追い討ちをかけるように
「俺さぁ、高校んときからお前のこと、ムリだったんだよねー。 けど、さすがにお互い大人になったら大丈夫だろーなーって思ていたけど…………」
…………………
「…………やっぱムリだわ 」
…………朝倉くん!
『ふぅ~ん、そうなの。 興味ねー。』
…………瀬野尾くん!
何なの?何がどうなってるの?
よく分からない状況にひとり焦った……
朝倉くんは瀬野尾くんをじっと見て言った。
「俺ら中に戻るからさ、そこどいてくれるかな。」
朝倉くんが前を向いたまま、手を後ろに回してきた。そして、私の左手を優しく掴んだ。