卒業

真実





『……結婚する予定の人ってどんな人?』




不意に、朝倉くんが話しかけてきた。





………………





『ごめん、聞いちゃダメなやつだったかな』





………………






『話題変えよっか…………』





………………











「…………嘘なの…………」



『えっ?』



朝倉くんが不思議そうな顔で私を見た。



私、何を言い出してるんだろう。どうして朝倉くんにこんなこと……



それでも言葉は堰を切ったように出てくる。



「私、付き合っている人なんていないの。ついでに結婚の予定もない。」



『…………』



私は朝倉くんを見た。



朝倉くんは困ったような顔をしたけれど、ぼそっと小さな声で言った。



『瀬野尾と付き合っていたの?そういう風に聞こえたけど……』




「…………違う。付き合ってはいない。ただ、一緒にいることが多かっただけ。」



『じゃあ別にもう会わないとか、そんなしなくていいんじゃ……そもそも、結婚の話も嘘なんでしょ?』



朝倉くんはテーブルに両腕を置いて、私をのぞき込んだ。そして優しい目で私を見つめた。




朝倉くんが親身になって聞いてくれるから、私はつい甘えてしまいたくなった。



誰かに救ってほしかったのかもしれない。
誰かに聞いてほしかったのかもしれない。




自分で終わらせた恋なのに………


その激しい後悔の念と、どうしようもない気持ちが私の胸を押し潰す。

私は苦しさを吐き出すように 、これまでのことをゆっくりと話し出した。




朝倉くんはじっと私の話を聞いてくれた。

何も言わず黙って…………







でも時々くれる『うん』という相槌が、とても優しかった………







10年間、誰にも話したことのなかった、私の気持ちと、瀬野尾くんとの出来事を話した。




今までひとりで抱えてきたものが、すーっと溶け出してくるような感覚だった。




いろいろなものがゆっくりと溶け出すたびに、涙がこぼれ落ちた。




朝倉くんは最後まで全てを受け止めるように、優しく聞いていてくれた。



< 58 / 87 >

この作品をシェア

pagetop