卒業
真実
『……結婚する予定の人ってどんな人?』
不意に、朝倉くんが話しかけてきた。
………………
『ごめん、聞いちゃダメなやつだったかな』
………………
『話題変えよっか…………』
………………
「…………嘘なの…………」
『えっ?』
朝倉くんが不思議そうな顔で私を見た。
私、何を言い出してるんだろう。どうして朝倉くんにこんなこと……
それでも言葉は堰を切ったように出てくる。
「私、付き合っている人なんていないの。ついでに結婚の予定もない。」
『…………』
私は朝倉くんを見た。
朝倉くんは困ったような顔をしたけれど、ぼそっと小さな声で言った。
『瀬野尾と付き合っていたの?そういう風に聞こえたけど……』
「…………違う。付き合ってはいない。ただ、一緒にいることが多かっただけ。」
『じゃあ別にもう会わないとか、そんなしなくていいんじゃ……そもそも、結婚の話も嘘なんでしょ?』
朝倉くんはテーブルに両腕を置いて、私をのぞき込んだ。そして優しい目で私を見つめた。
朝倉くんが親身になって聞いてくれるから、私はつい甘えてしまいたくなった。
誰かに救ってほしかったのかもしれない。
誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
自分で終わらせた恋なのに………
その激しい後悔の念と、どうしようもない気持ちが私の胸を押し潰す。
私は苦しさを吐き出すように 、これまでのことをゆっくりと話し出した。
朝倉くんはじっと私の話を聞いてくれた。
何も言わず黙って…………
でも時々くれる『うん』という相槌が、とても優しかった………
10年間、誰にも話したことのなかった、私の気持ちと、瀬野尾くんとの出来事を話した。
今までひとりで抱えてきたものが、すーっと溶け出してくるような感覚だった。
いろいろなものがゆっくりと溶け出すたびに、涙がこぼれ落ちた。
朝倉くんは最後まで全てを受け止めるように、優しく聞いていてくれた。