卒業



私が話し終わると、朝倉くんは微笑みながら優しく私に問いかけた。



『本当に瀬野尾のことが好きなんだね。…………で、どうするの……これで終わりなの?』



…………え



「……もうこれでおしまいにする……」




『どうして?』




「だって、瀬野尾くんには彼女もいるし……もう……」




『それでいいの?なんか変な終わりかたじゃん。俺は嫌だなー。やっぱり最後は本当のこと伝えたい。うん、そう。嘘じゃなくて。本当のこと。』




………………




『俺さ、瀬野尾のことよく分かんないけど、あいつのさっきの目つき。昔どっかで見たことあるなーって思ってて。今さ思い出したの。』




…………え















朝倉くんは私の知らない瀬野尾くんの話をゆっくりと話してくれた……




『俺さ、高校んとき夜フラフラ遊び回っていたの。ま、分かるよね 笑。で、ある日、繁華街のクラブの裏口から瀬野尾が出てくるの見たんだ。明らかに店員の服装だった。』




「高校生でクラブ?」




『そう。それもホストクラブ。マジでびっくりした。だって瀬野尾だよ? 学校では優等生で人気者。日の当たる場所がお似合いのあいつと、まさか夜の繁華街で会うなんてさ。』



…………




『そしたらさ、瀬野尾が俺に気づいたんだ。逃げると思ったら俺のこと、ガン見するわけ。さっきの目だったよ。なんか哀しげなというか、生気のない目つき。学校では見たことのない瀬野尾にちょっと、びびったのを思い出した。』



…………




『そう、そしたらその時、瀬野尾が ‘’ 言えば。学校に言えば 。‘’って言ってきた。そう言うと、すぐに店の中に戻っていったんだ。俺さ、本当に瀬野尾だったのか信じられなくて、その後、結局誰にも言わなかった。』




「そんなことが……」




『あ、でね、学校で瀬野尾に会ったときに確かめようとしたんだけど、なんのこと~?ってまともに話せやしなかった。』




………………。




『その後、俺、あいつにからかわれているのかと思って、こっそり瀬野尾のこと調べたんだ。』




私は、私の知らない瀬野尾くんが、朝倉くんの口から次から次へと出てくることに戸惑い、頭の中はパニックを起こしていた。




『あいつ母子家庭なんだよ。どうやら高校2年の冬に母親が倒れて入院していたみたでさ。医療費とか相当お金に困っていたらしい。で、クラブでバイトしていたみたいだな。』




…………そんなこと

…………全然知らなかった




私は愕然として手で口を覆った。



『ああ見えて、結構苦労人だったんだな。学校が終わったらバイトと受験勉強に終われてて、実は彼女とかいなかったみたいだし。』




「…………私、何にも知らなかった…………」




『仕方ないよ。あいつはその事、隠し通していたから。ホント、学校で見る瀬野尾は全然そんな素振りゼロだったからね。すげーよ、あいつは。』



「………………。」



私は朝倉くんが語った瀬野尾くんの姿を想像しようとしたけれど、全然出来なかった……。



だって私の知っている瀬野尾くんじゃないもの……



私の知っている瀬野尾くんは………


いつも明るくて
いつも冗談を言ってくれて
いつも私を楽しませてくれて
いつも何考えているか分からないくせに
ちゃんと私のこと気にしてくれて…………




そんな悩んだり苦しんだり………
そんな姿を見せたことなかった……






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