卒業
お店の外に出ると瀬野尾くんは、大きく伸びをした。まるで太陽を浴びた猫が全身で伸びをするように。



『じゃ俺、午後から用事があるから、今日はここで。 』


「うん、じゃ、彼女さんに上手く渡してよ。」


『はいは~い』


そう優しく言うと、瀬野尾くんは大きな手で、私の頭を1回くしゃっとした。



そして瀬野尾くんはヒヨコッと、片手をあげて、可愛いい紙袋を持ってゆっくりと人混みの中に消えていった。







そう、いつもそう。
瀬野尾くんはふっといなくなる。
まるで気紛れな子猫のように…………



そして必ず最後に私の頭を1回くしゃっとして、私の心を鷲掴みにしたまま、ひょうひょうと消えてしまう…………



でも大丈夫
これももう慣れっこ



別れ際に頭を1回くしゃっとされるようになったのはいつ頃からだろう…………



瀬野尾くんにとってはただの別れの挨拶だろう。



けれど私にとっては………
次、会う日までのおまじないだ…………



この、くしゃがあれば、次、会う時まで頑張れるから。









私は瀬野尾くんの背中が見えなくなるまで、じっとその場から見送った……










さ、私も帰ろっと。









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