卒業


瀬野尾くんを探そうと、お店を飛び出した私たちは顔を見合わせた。




「どこに行ったのかな……」

『だね』



朝倉くんも苦笑いしている。


すると朝倉くんは少し控えめな感じで言った。


『瀬野尾に電話するのは…………かけづらいか 』

「…………うん」


そもそも自分から瀬野尾くんに電話をかけたことが無かった。


それに、今は瀬野尾くんと会って話がしたかった。


瀬野尾くんは私の言葉を聞いてどう思ったのだろう……。薄情な奴だと思ったのだろうか。




それとも…………









『ねっ、何かさ心当たりない?』


朝倉くんが落ち着かない様子で聞いてきた。



私は考えてみたけど、全然思いつかなかった。瀬野尾くんはもう家に帰ってしまったのかも知れないし、別のお店で飲んでいたりするかもしれない。


私は瀬野尾くんと10年も一緒にいたのに、瀬野尾くんのこと何にも知らなかった。


いったい私は瀬野尾くんの何を見ていたのか……


自分で自分が情けなくなった。





< 62 / 87 >

この作品をシェア

pagetop