卒業
瀬野尾くんを探そうと、お店を飛び出した私たちは顔を見合わせた。
「どこに行ったのかな……」
『だね』
朝倉くんも苦笑いしている。
すると朝倉くんは少し控えめな感じで言った。
『瀬野尾に電話するのは…………かけづらいか 』
「…………うん」
そもそも自分から瀬野尾くんに電話をかけたことが無かった。
それに、今は瀬野尾くんと会って話がしたかった。
瀬野尾くんは私の言葉を聞いてどう思ったのだろう……。薄情な奴だと思ったのだろうか。
それとも…………
『ねっ、何かさ心当たりない?』
朝倉くんが落ち着かない様子で聞いてきた。
私は考えてみたけど、全然思いつかなかった。瀬野尾くんはもう家に帰ってしまったのかも知れないし、別のお店で飲んでいたりするかもしれない。
私は瀬野尾くんと10年も一緒にいたのに、瀬野尾くんのこと何にも知らなかった。
いったい私は瀬野尾くんの何を見ていたのか……
自分で自分が情けなくなった。