卒業
私は瀬野尾くんのシャツを涙で濡らした。
泣いて、泣いて、泣いた……
その間、瀬野尾くんは何も言わず、ずっと、ずっと、ずっと、私が泣き止むまで抱きしめていてくれた。
どれほどの時がたったのか、私は落ち着きを取り戻した。
瀬野尾くんはまだ私を抱きしめたままだ。私の右肩には瀬野尾くんの顔がある。
私はハッと我に返り、瀬野尾くんに抱きしめられているという状況に、急に胸がドキドキしはじめた。
「……あ、瀬野尾くん……ごめん」
蚊の鳴くような声でそう言ったが、瀬野尾くんはピクリとも動かない。
「瀬野尾くん……」
………………。
………………。
瀬野尾くんはまた艶っぽいため息を一つ、私の耳元に落とした。
私の心臓はドクドクと爆音で激しく鳴り出す。
すると瀬野尾くんがボソっと耳元で呟いた。
『ねえ。さっきさ、言えなかった言葉……』
………………
『言って……』
………………え
私は急にまた、頭のなかに不安がよぎった。その言葉を口にしたら、魔法がとけてしまうのでは、瀬野尾くんが私の目の前から消えてしまうのでは………もう瀬野尾くんと本当に会えなくなるのでは……
不安でまた胸が詰まって苦しい。
苦しいよ……
苦しいよ……
………………
でも、言わなくちゃ……
しっかり…………私
大丈夫…………
私は瀬野尾くんの胸のなかで深呼吸をした。