卒業




瀬野尾くんが高校、大学とホストクラブでアルバイトをしたのは、母親の医療費を稼ぐため。そして、そのホストクラブのオーナーは、母親の幼馴染だったということ。


オーナーもその奥さんもとてもいい人で、お金を立て替えて支払ってくれたり、親身になって相談にのってくれたり、食事なども気を使ってくれたり、大学まで行かせてくれたということ。


借りたお金を返す目的もあったけれど、たくさんの恩もあって、しばらくはクラブでアルバイトを続けていたこと。


ただ少し厄介だったのが、オーナーの娘に好意を抱かれていて、オーナーの手前仲良くする他なく、たまに食事や買い物に付き合っていたけど、男女の関係にはなっていないということ。


そしてようやく、借りていたお金も返し終わり、最後の最後にオーナーの娘とデートをしていたところを、私がたまたま目撃したのだということ。



そして、その日を最後にホストクラブからは、完全に関係を絶ったということ。






たくさんの瀬野尾くんの話、どれもこれも私が知らない話ばかり。聞いていて辛かった。


瀬野尾くんがこんなにも大変な思いをしていたこと。そのことを全く知らず、今まで一緒に過ごしていたこと。


一番、自分が情けなかった。





そして、私が、一番心配に思っていたこと、一番聞きたかったこと。

お母さんはその後、良くなったのかと、勇気を出して聞いてみた。




『母さんは3年前に亡くなったよ……』




私は両手で口を押さえ、叫びに近い声が漏れるのを押さえた。



「ごめんなさい。ごめんなさい。…………私、瀬野尾くんにも、瀬野尾くんのお母さんにも何にもしてあげられなくて………………ごめんなさい……」



そう伝えるのが精一杯だった。
私はまた涙をこぼした…………



すると瀬野尾くんは、私の手を優しく握りしめた。



『ありがとう。顔も知らない母さんの事で泣いてくれて……きっと母さんも喜んでいるよ……』



そう言って瀬野尾くんは私の頭をくしゃっとした。



『俺にとっては、いつもそばにいてくれたことが、 一番の心の支えだったよ。ありがとう……』


そう言ってくれた瀬野尾くんの表情は、とてもやわらかい笑顔だった……




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