卒業

しばらくして、瀬野尾くんがポツリ話し出した。



『実はねドタキャンされた日…………あの日、お前に告白しようとしていた……』


「うそ……」


『ずっとずっと好きな気持ち我慢していた。本当はもっと早く伝えたかったけれど、自分の環境のこと考えると、とても告白できる状態じゃなかった…………』


………………



『一日でも早くまともな自立した生活に戻して、告白したかった……』


………………



『だけどあの日、ドタキャンされて会えなくなって…今までドタキャンなんて無かったからさ、急に不安になった…………』



「…………あ」



『久しぶりに同窓会で見たとき、いつもと何かが違うって気づいたよ…………。もう焦った。不安しかなかった…………』




『そしたらさ、彼氏宣言されちゃって…………俺のこと待っていてくれるって勝手に思ってたから 、本当に自分のバカさかげに泣けてきてさ…………。ショックだったー。もう終わったって思った。』



「……ごめん、瀬野尾くん、私……」



その言葉を遮るように瀬野尾くんは切ない表情で言った。




『ずっと好きだと言えなくて、ごめん』



……………………




『 いつも、いつも変わらず側にいてくれたから、俺、前を向いてこれたんだよ。』




『だから、これからもずっと俺の側にいて欲しい……もちろん、友達じゃなくて……』




私は夢のようなこの展開に、頭のなかは真っ白になった。でも、幸せで幸せで、胸が押し潰されそうに苦しくて…………それでも精一杯の返事をした。




「……私でよければ」




すると、瀬野尾くんは握っていた手を振り離し、思いきり私の肩を抱き寄せた。


瀬野尾くんの冷たい頬が私の頬と重なった。



『私でよければ、じゃないだろ…………おまえじゃなきゃダメなんだよ……』




甘えるように囁いた声は、私の身体中を痺れさせた。そして、間近に私を見つめる瀬野尾くん。



その月明かりに照された瀬野尾くんの顔は、うっとりするほど綺麗だった。目にかかる前髪からのぞく男らしい眉毛に、くっきりとした二重の優しい目元。その瞳は涙をまとってキラキラとしていた。



すっと通った綺麗な鼻筋に、艶っぽい唇。月明かりのせいだろうか、一段と透き通っている白い肌。



私は夢を見ているような気分だった。私の大好きな瀬野尾くんが目の前にいて、私をギュッと抱きしめてくれている。



それはそれはとても幸せだった。
体中がじわりと瀬野尾くんの体温に染まっていくような、そんな感覚だ…………


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