茜色の約束
スクールカースト
僕は悩んでいた。
志保をどこへ連れて行こうかと。
休み時間、教室の中の、僕の居場所でうんうんと頭を抱える。
どうせなら、志保を喜ばせる場所に連れて行きたい。志保の笑顔を見たい。
僕は、教室を見渡した。
僕の学校は共学なので、教室にいる生徒の半分は女子だ。
でも、僕はあまり、女子と話さない。何か用事がない限り、ちゃんと顔を見ないのだ。
初恋の経験はある。憧れの女の子もいたこともある。けれど、志保ほど言葉を交わした女の子は初めてだ。
いつだって、僕は見ているだけで終わっていた。
志保への気持ちはよく分からない。
鼓動の高鳴りもよく分からない。
だって、僕と志保は出会って、まだ日が浅いのだから。
机に顔を寝かせ、僕は再び教室全体を見渡した。
数人のグループでいる女子もいれば、一人でいる女子もいる。
何も考えず、ただ楽しそうに大口を開けて笑う女子もいれば、おどおどし、気を使っているのがみえみえの女子もいる。
女子って、階層化でもしているのかなと、ふと思った。
自分に合う合わないを瞬時に判断し、付き合う人と付き合わない人を決める。
自分より上と下を決める。
少なくとも、今の僕の視界に映る女子はそう見える。
もし、それが事実なら、女子という生き物は大変だ。
志保がこの場にいたら、どこにいるのだろう。
しばらく考えてみたが、思いつかない。志保はなんだか次元が違う気がする。
なんといっても、僕なんかに興味を抱いているのだから。
でも、そんな志保が魅力的で堪らない。
もっともっと志保を知りたい。
もっと志保の色んな表情を見たい。
そう考えていると、僕の目の前ににゅっと重明が現れた。
驚いた僕は、顔を思い切り上げた。
もし、ぼくが今の状態ではなく、背筋を伸ばしていたならば、きっとひっくり返っていただろうなと思った。びっくりしたせいか、心臓が暴れている。
「どうしたんだよ。ぼーとして」
重明は僕が驚いたことに、何も気付いていない様子だ。
「別に」
ふんっと顔を横に背け、そう言うと、重明は立ち位置を変え、なんとしてでも僕の視界の中に入ってこようとした。何度繰り返しても同じことを重明はするので、根気負けした僕は口を開いた。
「休日に外に出掛けるなら、どこかなって考えてた」
「今の季節なら、紅葉だろう」
さらりと言った重明の言葉に僕は唖然とした。
「それだ!」
立ち上がり、叫んでしまった。
クラスメイトが次々と僕を見た。
重明も目を丸くさせて僕を見ている。僕は、何もなかったかのようにおずおずと椅子に座った。
「何?写真でも撮りに行くのか?」
重明が僕の顔をまじまじと見る。眉を潜め、怪しげな眼差しを僕に向けた。
「まあ・・、そんな感じだ」
うん。僕は、嘘は吐いていない、はず。