茜色の約束

花の妖精



「実!私、二人乗りしてみたい!」


 ある日、僕の自転車を見て、志保は無邪気にそう言った。

 二人乗りなんてしたことはなかったけれど、志保の前でかっこつけていたい僕は了承した。
 緊張しながら、志保を後ろの席に乗せる。
 志保は僕のお腹に腕を回した。
 僕の背中に顔を埋める。僕は志保のその行動に、心臓が口から飛び出そうになった。

 自転車を走らせると、志保は「風が気持ちいい」と叫んだ。

 スピードを落としていると、志保がおもむろに言った。

「秋って、人恋しくなるって言うでしょう?」

 少しずつ冷えた風が、僕らの頬を撫でた。

「でも、私ね、全然寂しくならないの」

 僕はペダルを漕ぐスピードを少しずつ緩める。

「秋の風に枯葉が舞うのも、太陽が沈むのが早くなるのも、どうってことないの」

 僕の自転車は完全に停止する。


「なぜかしら」

 僕が左後ろを横目で見ると、志保が僕の腰の辺りから顔を覗かせる。
 志保は、首を左に傾けている。
 大きな目を、さらに大きく、輝かせ、僕を見ている。


 カシャッ


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