茜色の約束

「前世ってなんだったと思う?」


 ある日突然、志保は僕に言った。

 僕は、「そうだなあ」と呟きながら、ファインダーを通して空を見ていた。


「来世は何になりたい?」

 志保は、さらに僕に訊く。
 
 僕はカメラの位置をずらし、ファインダー越しに志保を見た。
 小さい四角の中心で、志保は僕を見つめている。

 今から初めてのお使いに旅立つ幼子のような、好奇心たっぷりの視線で志保は僕を見ていた。


 僕の答えは決まっていた。

 前世は志保の前世の隣にいた存在なら、何でもよい。
 来世だって、来世の志保の隣に居られる存在ならば、何にでもなる。


 けれど、僕はそれを言えるほどの度胸を持ち合わせていなかった。
 きっと僕は、初めてのお使いを任されたら、行きたくないと泣くのだろう。

 黙ったまま何も言わないぼくを志保はじっと見ていた。
 僕もファインダー越しで志保を見ていた。

 僕らは数秒の間、視線を合わせていた。

「私ね」

 志保がゆっくりと、その言葉を空中に放った。

「私の前世は実の前世の隣にいたと思うの。それから来世だって、実の来世の隣にいると思うの」

 志保はきっと初めてのお使いを任されたら、立ち向かってゆくのだ。
 どんな場所、状況に陥っても、度胸を忘れない勇者。
 臆病な僕とは歴然の差。

 僕は、僕のなかに存在する小さな度胸を呼び起こす。

「僕も、そう思う」


 志保はえへへと嬉しそうに笑った。




 カシャッ




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