レイニー・ハレーション
「どうもありがとう、お礼は必ずします」

「気にしなくていいよ、無理な約束はするもんじゃないよ」

まだ高い日射しを背に彼女は軽く頭を下げると、雲ひとつなく澄みきった青空と鮮やかな境界線を描く北ウイングのゲートをくぐり、建物の中へと走り去って行った。
僕はそんな彼女の後姿を、ただじっと見つめ続けていた───

僕はベッドに腰掛け、手紙の続きを見た。
そして最後に“?”と思った。
この手紙の最後に記してある宛名のイニシャルが僕のものではない。
その脳裏に、あの時に見せた頑な横顔が浮かんだ。
きっと彼女はホテルに忘れ物を取りに行ったのではなく、この手紙を彼に渡す目的であったに違いない。
でも何故か、その決意を直前で咎めてしまった。
彼女が時折見せた言い知れぬ不安は、彼女を空港で降ろした時にも感じた、彼に対する想いへの決別に他ならないのだ。
だが、残るひとつの謎については解らないままだ。
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