【超短編 25】 終日が終わる日には
「そうかな。依存しているだけなんじゃないのかな」
「止めようって思うかい?」
 もしかしたら建物ですらないのかもしれない。
「考えたこともあったけど…今は思わないね」
「だったらそれは依存じゃないよ。意志だ」
 ふんぞり返ることもせず姿勢の良いまま彼は強い口調でそう語るので、なんだかもうしわけなく思った僕は
「でも止めようと思っても、きっと止めるのは難しいと思うよ」
と謙遜するようなつもりで言った。
「それは君が心からそう思ってないからだ。本当に止めようと思ったら何でも止められるものなんだよ」
 彼は別に僕を意志の強い人間だと持ち上げているつもりではないらしい。ただ意思の強さについて思い入れがあるだけなのだ。
「何でも?」
「そうさ。依存なんていうのは言い訳に過ぎない」
 言い訳ねぇ。僕は大きく呟いてから反論を試みた。
「だけど、それで生活を壊してしまう人だっているじゃないか」
「それは望んでいないからさ」
「それを依存って言うんだろ」
「それを依存と言ってしまうと、みんな全てに依存していることになるんじゃないのか?」
 混乱してしまいそうになった僕は、新しいタバコに火をつける。
「体と頭が望むものが違うことだってあるんじゃないのか?」
「体と頭は一緒だよ。同じ所にあるんだ」
「それで死んでしまうことだってあるじゃないか」
 僕は彼を振り向かせるつもりで声を荒げてそう言ってみたが、彼は視線を動かさずに答えた。
「それも意志だろ」
 彼の言うことの方が正しい気がしてきた。
 熊のぬいぐるみの言うことの方が、尤もな意見だった。
「そうだね、君の言うとおりだ」
 僕は観念して敗北を認めると、彼は始めから体をまったく動かしていなかったが、鼻を鳴らして
「だろう?」
と得意げに言った。

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