向日葵
こんな状況で聞かれるなんて思いもしなくて、目を丸くしたようにあたしは、小さく視線を泳がせることしか出来なくて。


だけども智也の瞳は真っ直ぐにこちらを向いていて、偽りの言葉を並べることさえも困難な状況で、あたしは唇を噛み締めるようにして顔を俯かせた。



「別れたら?」


何も言えないままのあたしに、ため息混じりのそんな一言が落とされた。


通りの騒喧はどこか遠くに聞こえ、あたしと世界が遮断される。


そんな中で、智也の放った言葉だけが、意志とは別に、ただグルグルと回り続けて。



「お前はさぁ。
頭打たないと気付かないタイプじゃん?」


「…何、それ…」


「人の言うことは聞かないし、そのくせよく失敗するし。」


「今回のことも、失敗だった、って?」


「…んなことは言ってないけど。
でも、もう自分でもわかってんじゃね?」


「―――ッ!」


智也が背中を預けたフェンスが、ミシッと小さく軋んだ。


ひどく痛い言葉ばかりだなと、そんなことを思うと、少しばかりやるせない気持ちにさせられてしまうのだけれど。


結局、自嘲気味に笑うことしか出来なくて、足元へと視線を落とすと、あたしの投げた煙草が、未だ白灰色の煙を昇らせていた。



「考えとくね。」


いたたまれなくてあたしは、そんな一言を残し、智也に背を向けた。


吐息を吐き出すと、それは小さく震えていて、そんな自分がひどく情けないなと、そう思わされるばかりで。


曖昧なままに過ぎてきた毎日が、智也の言葉ひとつに一蹴された気がした。


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