向日葵
未だ彼の腕を掴んだままだった右手を振り払われたその刹那、静寂の中でパサッと何かが落ちる音が響いた。


視線を落とせば、真っ黒い色した道路に、手の平よりも小さなサイズのビニールのパケ。


その中には、オレンジ色の錠剤が一粒。



「…何、で…」


何で陽平が、タマなんか。


そう、戸惑うように顔を上げた瞬間、彼は舌打ちを混じらせ、それを拾い上げた。


拾い上げて、そしてシャツの胸ポケットへと再びそれを仕舞い入れ、面倒臭そうにため息を吐き出して。



「だって夏希が金くれたじゃん。」


「―――ッ!」


上手く呼吸が出来なかった。


パチンコで全て使い果たしたと言っていた言葉も、今ではもう、どこからどこまでが本当なのかさえも定かではない。


ただ陽平は、あたしを騙し続けていたのだろうなと、働かない頭を使ってみても、導き出された答えは、そんな陳腐なものだけだった。



「…タマも仕事も辞めたって…あたしのことが大切だって言ってたじゃん…!」


「あぁ、あんなの信じたんだ。」


「…何、言って…」


「まぁ、大切な道具、ってのは本当だけど。」


「―――ッ!」


目を見開いたままのあたしに、彼はククッと喉を鳴らし、煙草を咥えた。


それでも信じようとして陽平を選んだはずなのに、なのに残されたのは、裏切られた気持ちだけ。



「マジで最低。」


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