向日葵
そう、自らに吐き捨ててみれば、涙されも込み上げてくることはなく、滑稽すぎる自分にただ笑えた。


本当は、あの日に壊れてしまったはずなのに、なのにあたしはそんなことにも気付かないまま、必死で修繕しようとしていたのだから。



「今度は俺の番じゃね?」


煙草を投げ捨てた刹那、そう言った陽平によって、腕を引かれた。


何をされるのか、どこへ連れて行かれるのかもわからないままに目を見開けば、強い力によって抵抗することは許されない。


足がもつれながらに角を曲がり、そのまま路地裏へと連れ込まれ、壁へと叩きつけられた。


月明かりさえも届くことはなく、本物の真っ暗闇の中で、彼は不敵に口元だけを上げて。



「…何、する気…?」


「わかんねぇ?」


その瞬間、カチャッと小さく響いたのは金属音で、それがベルトのバックルを外す音だと気付くまでに、そう時間は掛からなかった。


だけども逃げようとするより早くに道は塞がれ、恐怖心の中で体が強張って。



「声出したりしたら、恥かくのは夏希の方だからな。」


「…やめっ…」


それがあたしが最後に言えた言葉で、言い終わるより先に大きな手の平によって口を塞がれ、“黙れよ”と、そんな低い声。


震えながら固く目を瞑るあたしの体を、陽平の生温かな舌が這う。


月明かりからも見放され、まるで世界の終わりのような場所だと思った。



『戻ったら、また繰り返すだけだろ?!』


きっと、クロの言葉に耳を傾けなかったあたしに、天罰が下ったのだろう。


それだけのことだ。








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