向日葵
ゆっくりと、恐る恐る顔を向けた瞬間、息を呑むことしか出来なかった。
真っ直ぐにこちらに向けられた視線に、今更ながらに戸惑うようにそれを逸らしてみるも、時すでに遅く。
「…ク、ロ…」
クロが、しかも女と腕を組んだ状態で。
ついでに言えば、隣の女は、この前も一緒だった彼女。
視線を動かせば、頼りない記憶の中でもこの場所は、どこか見覚えがあったなと、今更ながらにそんなことを思ってしまうのだが。
あの頃、もっと外出しておけば、ここがクロのマンションからすぐ近くだということに、もっと早くに気付けていただろうか、と。
「またこの子なの?」
沈黙の中、“ねぇ、龍司!”と、答えを催促するような彼女の、少し不機嫌な物言い草。
こんな場面を、しかもこんな状態でなんて、見たくもなかったのに。
本当に今日は、最悪な日だ。
そんな重苦しい沈黙が再び訪れ、彼はひとつため息を吐き出して。
「なぁ、美弥子。
悪いんだけど、ちょっと帰ってくんない?」
「…え?」
彼の紡ぎ出した言葉に驚いたのはあたしも同じで、だけども彼女、“美弥子サン”は、当たり前に不服さ全開で眉を寄せる。
戸惑うままにクロを見上げてはみたものの、彼は煙草の煙を吐き出すようにして視線を落としたきり、それを上げようとはしなくて。
「へぇ、龍司がねぇ。
意外なもの見ちゃった感じ。」
へぇ、とか、ふ~ん、とか含みを持ったようなそんな言葉と共に美弥子サンは、口元だけを上げた。
上げて、そしてそのまま彼女は手をヒラヒラとさせ、きびすを返し、あたし達から遠ざかっていくのだから。
三度目に訪れた沈黙もまた重く、どうすることも出来なくて。
真っ直ぐにこちらに向けられた視線に、今更ながらに戸惑うようにそれを逸らしてみるも、時すでに遅く。
「…ク、ロ…」
クロが、しかも女と腕を組んだ状態で。
ついでに言えば、隣の女は、この前も一緒だった彼女。
視線を動かせば、頼りない記憶の中でもこの場所は、どこか見覚えがあったなと、今更ながらにそんなことを思ってしまうのだが。
あの頃、もっと外出しておけば、ここがクロのマンションからすぐ近くだということに、もっと早くに気付けていただろうか、と。
「またこの子なの?」
沈黙の中、“ねぇ、龍司!”と、答えを催促するような彼女の、少し不機嫌な物言い草。
こんな場面を、しかもこんな状態でなんて、見たくもなかったのに。
本当に今日は、最悪な日だ。
そんな重苦しい沈黙が再び訪れ、彼はひとつため息を吐き出して。
「なぁ、美弥子。
悪いんだけど、ちょっと帰ってくんない?」
「…え?」
彼の紡ぎ出した言葉に驚いたのはあたしも同じで、だけども彼女、“美弥子サン”は、当たり前に不服さ全開で眉を寄せる。
戸惑うままにクロを見上げてはみたものの、彼は煙草の煙を吐き出すようにして視線を落としたきり、それを上げようとはしなくて。
「へぇ、龍司がねぇ。
意外なもの見ちゃった感じ。」
へぇ、とか、ふ~ん、とか含みを持ったようなそんな言葉と共に美弥子サンは、口元だけを上げた。
上げて、そしてそのまま彼女は手をヒラヒラとさせ、きびすを返し、あたし達から遠ざかっていくのだから。
三度目に訪れた沈黙もまた重く、どうすることも出来なくて。