向日葵
「とりあえず、俺んち来い。」


「…あたしっ…」


「来いよ。」


もう一度そう、低い声で言われた台詞に、抗うことは叶わなかった。


クロは一度としてこちらに視線を向けることはなく、そのままマンションまで足を進めてしまい、あたしはと言うと、それに続くことしか出来なくて。


今更クロと会ったからと言って、どうなるわけでもないはずなのに。







「で?
こんな時間にこんな場所歩くなんて、何考えてんの?」


とりあえず的にソファーに座らされたのだが、居心地の悪さは拭えなくて、おまけにクロは、キッチンで煙草の煙をくゆらす始末。


つい一ヶ月ほど前、この場所で共に過ごしたはずなのに、なのにもう、あの頃のことが、遠い昔のようで。



「…これは別に、たまたまでっ…」


「そんなの、俺に通用するとでも思う?」


やり過ごそうとして適当に言葉を見繕うも、そう言って投げられた瞳はひどく冷たいもので、指の先から血の気が引くのを感じてしまった。


プライウッド素材のダイニングチェアへと腰を降ろした彼は片膝を立て、こちらを見つめる様は、まるで尋問でもしているみたいで。



「…ホントにたまたまだし、助けなんて必要ない…」


そうやって言葉を見繕えば、そんなあたしに向け、彼は長いため息を吐き出した。


吐き出して、そして、“助けを求めるようなことでもあったんだ?”と、そんな風に呟くのだ。


今度は言い訳のしようもなくて、あたしは唇を噛み締めることしか出来なくなってしまう。


墓穴を掘ってしまったなと、今更ながらにそんなことを思ったのだけど、だからと言ってどうすることも出来ず、結局はまた、視線を落とすことしか出来ない。



「悪いけど、俺はもう、お前のこと助けるつもりはないから。」


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