向日葵
ひどく痛々しい言葉が、胸の奥をえぐった。


だけどもそれは当然のことで、あの時クロの手を振り払ったのは、紛れもなくあたしの方なのだから。


だからもう、戻れないのだと、そう言われているだけなのに。



「智也、呼んでやるから。」


「…えっ…」


「聞いて欲しいことがあんなら、アイツに聞いてもらえ。
その傷の理由も、こんな時間にフラフラしてる理由も。」


“俺は、聞きたくなんてないから”と、そう付け加え、彼は携帯を片手に立ち上がった。


突き放されているのだと、そんな現実を頭で理解するまでにそう時間が掛かることはなく、ただ、涙が溢れて。


そんなあたしに気付いたクロは、小さくため息だけを落とし、顔を覆うようにして左手をかざした。



「…泣くなよ…」


「違っ!」


「違わねぇだろ!
泣かれたって、俺はもう、何もしてやれねぇんだよ!」


吐き出すような台詞が、静寂のリビングに響いて消えた。


あたし達の距離は遠ざかる一方で、こんなことなら、呼び止められたあの時に、どうやってでも逃げてれば、と。


今更そんなことに後悔しても、もう遅いのにね。



「…ごめっ…」


消え入りそうな声でやっとそんな陳腐な言葉を紡いでみるも、彼が何かを返すことはなく、カチャッとドアノブを引く音が消えた。


そして静かに部屋を出ていく様を、あたしはただ、見つめることしか出来なくて。


思い出の詰まったこんな場所で独りっきりにされてしまい、声を殺すことしか出来ないまま。


今ではもう、何もかもが夢幻でしかない。



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