向日葵
『…お母さん、ご飯は…?』


そう、あれは中学に入ったばかりの頃。


やっと終わった両親の喧嘩に安堵し、少し遠慮がちにあたしは、そう母親に問うてみたのだが。



『パンでも食べてれば?』


そう言って、菓子パンの袋ひとつが乱雑に投げられた。


まぁ、あるだけマシなんだろうなと、その頃にはもう、諦めることで現実を受け入れていたっけ。


ちなみに父親は、今日はもう帰って来ないだろう。



『それから、片付けしといてよね。』


“あたし、出掛けるから”と、そう付け加え、彼女は先ほど父親が割り散らかした食器の残骸をアゴで指し、あからさまにため息を吐き出して。


いつも、これが養ってもらっているアンタの仕事なのだと、そう母親は言っていた。



『何よ、文句でもあるの?』


『…ない、です…』


『まったく。
アンタも中学生なんだし、自分の食いぶちくらい、体売ってでも稼いできてくれれば楽なのに。』


本当に役に立たない、とでも言った口調で彼女は、荷物を持ち上げた。


母親が出ていく後ろ姿を見送りながら、本当にあの人は、何であたしを産んだのかなと、そんなことばかりを思わされて。


強がることで、自分の中に燻る弱さを隠してきたつもりだった。


なのにもう、そんな力も残されてはいないのだから、嫌になる。








ガチャリと金属音がし、弾かれたように顔を向けてみると、智也のため息混じりの瞳が落ちる。


本当にクロは、智也を呼んだのだと思うと、そんな瞳が痛くてあたしは、無意識のうちに顔を伏せた。


沈黙だけが続き、“夏希”と、彼は言葉を探すようにあたしの名前だけを呼び、床にしゃがみ込んでいるあたしと同じ高さまで腰を落とした。



「美人が台無しだな。」


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