向日葵
「智也にさ、怒られちゃって。」


「…智也に?」


「そう。
おまけに、お前のこと連れ戻さなきゃ、一生俺を恨む、って言っててさ。」


“負けるよ、アイツにも”と、そう肩をすくめながら、クロはため息を混じらせた。


どうやらあたし達は、智也の手の平の上で踊らされてるのかもしれないなと、そう思うと幾分頭が痛くなってくるのだが。



「もし、智也に好きだって言われたらどうする?」


「…そんなの、ありえないよ…」


「ホントに、そう言い切れる?」


突然、一体何を言い出しているのだろう。


ひどく混乱した頭のままに言葉を噛み砕いてみるも、その意味なんてわからないまま。



「アイツは俺なんかとは違って真っ直ぐだし、説教臭いけど言うこと間違ってないし。
あーゆーヤツと居る方が、幸せになれると思うけど?」


「…何で、そんな…」


「それでも俺に助けを求めるお前は、マジで馬鹿だと思う。
つか、わかっててもお前のこと助ける俺は、もっと馬鹿なのかもしれないけど。」


フッと口元を緩め、彼は短くなった煙草を闇空へと投げた。


赤く灯された光は放物線を描きながら少し向こうへと落ち、その色は消える。



「俺、もう人生に後悔すんの嫌なんだよ。」


そう言った彼の顔は、今更出てきた月の光に淡く照らされ、伏し目がちなそれに影を落とした。


だけども幾分心持ちが軽くなったような気がしたのは、頼りないだけの月明かりの所為なのか、それともクロの心の中を、少しばかり覗けたからなのか。


どちらなのかはわからないが、煙草を消すと、“いい加減帰ろうぜ”と、そんな言葉。


口元だけを緩めて立ち上がると、同じように立ち上がった彼は後ろ手に手を差し出してきて、二人、真っ暗な浜辺で指先を絡めた。


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