向日葵
シャワーを浴びるためなんだと言ったクロによって連れて来られたのは、ラブホテル。


さすがは田舎だけに、外観通りと言ったところだろう、内装さえも、お世辞にも褒めるポイントは見つからないのだが。


それにしても心臓が早くて、無意識のうちに彼との距離を取ってしまう。



「今更緊張?」


視線は斜に捕え、“一緒に暮らしてたこともあったのに”と、そう付け加える様に、思わず恥ずかしさを隠すようにあたしは、バッグをソファーへと投げた。


ダサいピンクの照明は、はっきり言って余計なお世話だし、クロが目の前に居るのだと思うと、どうして良いかもわからなくて。


ホテルに入ったんだし、何もないなんてことはないのだろうが。



「シャワー、浴びてくれば?」


そう、ベッドへと腰を降ろした彼は後ろ手に手をつき、咥え煙草のままにあたしへと視線を送る。


“うん”としか言えないままにあたしは、そんな瞳から逃げるようにお風呂場へと向かった。


綺麗に並べられたタオルも、色違いのバスローブも、ホテルなんて慣れてて、おまけに見慣れているはずなのに。


ひとつため息を落としあたしは、服を脱ぎ捨て、シャワーのお湯を頭から被った。


被ってみれば、冷えた体の芯から温められるのだが、未だ頭にこびりついているのは、食器の割れる音と、そして怒鳴り声。


それにプラスしたように、もう何ともない場所が小さく疼くのだから、嫌になる。


誰も好きになんてならないと誓って、そして傷の上から傷を塗り重ねるように、男との行為を繰り返してきたけど。


醜くて、何より汚いばかり。


まるで、あたしなんかが人を好きになってはいけないのだと、そう言われているようで、強く体を擦れば、痛みの中で唇を噛み締めた。


怖くて怖くて、仕方がないのだ。


頭と心が切り離されてしまったみたいで、クロとも同じことをすれば、彼のことが怖くなってしまいそうで。


それが、堪らなく嫌だった。


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