向日葵
伏し目がちに口元だけを緩め、クロはそう問うてきた。


戸惑いがちに視線だけを動かせば、彼はおもむろに、右腕の肘から上のシャツを捲り上げて。



「これが、俺の過去。」


驚いた拍子に目を見開けば、手元にあったドライヤーが、ガタッと音を立てて床へと転がった。


クロの右腕には、無数の煙草を押し付けた痕が残されていて、とてもじゃないが自分でやったものだとは思いがたい。



「虐待、されてたの。」


自嘲気味に漏らされた、そんな台詞。


恐る恐るその場所に、自らの指先を這わせれば、無意識のうちに涙が溢れて。


“怖い?”と、そう問われた言葉に、あたしは首を横に振ることしか出来ないまま。



「母親、早くに死んでさ。
そこから親父はおかしくなり始めたし、その頃ちょうど、親父は体壊して働けなくって。
結局酒浸りになって、散々俺の所為だとか罵ってさ。」


“で、これ”と、まるでおどけたようにそう言った。


一体どれほどの痛みが、彼を襲ったのだろう。


とてもそれを図り知ることは出来なくて、まるで自分のものとリンクしてしまったように、小さく体を強張らせてしまう。



「…思い出したり、しない?」


「するね、たまに。」


じゃあ、殴られていただけのあたしは、まだマシなのかもな、と。


“泣くなよ”と、そう言った指先によって涙を拭われ、少しの震える吐息を吐き出した。



「…ごめん…」


「何で夏希が謝んの?」


「…だって…」


だってあたしは、何も言えなかったのだから。


慰めの言葉が意味を持たないことくらい、自分自身が一番分かってるし、こんな時にどんな上手い言葉を並べて良いのかもわからないから。


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