向日葵
「さっき、俺のこと羨ましいって言ってたろ?
けど、俺としては、他人のために涙を流せる夏希の方が羨ましいけどね。」


これが、クロのための涙なのか、はたまた自らの過去を思い出した涙なのかは、自分でもわからなかった。


あたしはクロが言うほど出来た人間じゃないし、本当に黒いのは、きっとあたしの方なんだ。


だって、痛みの大きさを比べることなんて出来ないのだから。



「もうやめよう。」


そう言ったクロはあたしの頭をポンポンとし、そしてきびすを返した。


色んな事が頭の中でグチャグチャになり、上手く処理出来ないままにあたしは、その場へと崩れ落ちた。


クロが、それでも煙草を吸っている理由は、もしかしたらあたしと同じで、無意識のうちに自分の中に巣食う恐怖心と闘っているのかもしれないな、と。


そんなことを思えば、髪の毛からは、桃の香りに混じり、クロのパーラメントの匂いが微かに鼻をついた。



『俺、常に明るくないと不安だし。』


『いや、むしろ俺、人波に埋もれてる方が楽だから。』


『どっちかって言うと、そのまま窒息して死んじゃいたいかも。』


思い出すのはどれも、先ほどの車内での言葉。


彼はあの時、一体どんな気持ちでこんなことを言ったのだろう。


意識を手繰り寄せてみれば、聞こえてきたのはテレビの声なのだろう、笑い声。


もしかしたらこれが、クロなりの処世術なのかもしれないなと、そんなことさえ思ってしまう。


あたし達はお互いに、傷だらけなのだ。


自分の痛みさえも消化出来ないあたしが、クロの心の傷なんか埋めることが出来るのだろうか、と。


そんな風に思いながら、小さくため息のみを吐き出した。


< 138 / 259 >

この作品をシェア

pagetop