向日葵
視線を逸らすことは叶わないほどに近い距離で、そう問われた言葉。


ふたつの鼓動が重なり、少し早い速度で脈を打つ音が鼓膜まで響き、真横からは、パーラメントの白灰色が静かに立ち昇って。


どうすることも出来ずにその胸へと顔をうずめれば、あたたかいなと、そんなことを思ってしまう。



「夏希のそれ、癖だよね。」


「……え?」


「困ったら顔隠しちゃうの。」


驚いたように顔を上げてみたのだが、そんな言葉に惑わされてしまったように、再び視線がぶつかって。


今度こそ逃げられなくなり、小さな沈黙の中で煙草は消され、フッと彼は、口元だけを緩めて。



「お前が俺をマジにさせたんだから、責任取れよ。」


「…何、言って…」


「逃げるんでも忘れるんでもなく、過去と向き合う、って言ってんの。」


真っ直ぐな台詞に突き刺され、言葉の出てこなくなったあたしを、彼は自らへと引き寄せて。


耳にダイレクトに響く鼓動はやっぱり早く、それがあたしのものではないことくらい、十分にわかってしまうのだけれど。


思えば、こんなにも人に抱き締められ、そして鼓動を交わらせることなんて、今まであっただろうか、と。



「…ひとりで前に進もうとしないでよ…」


まるで置いてけぼりになった子供のように、気付けばそんなことを漏らしていた。


小さな不安が押し寄せてきて、そんな波にのまれてしまいそうで。



「…あたし、怖いっ…」


「うん、俺も怖いよ。」


震えはクロに伝わっていたのだろう、彼は、抱き締める腕に少しの力を込めた。


両親のことも、梶原のことも、一日たりとも忘れたことなんてないほどに、あたしの中に大きく存在しているのだから。


そんなものと向き合うほどの勇気は、まだ持てなくて。


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