向日葵
「…彼女、居るんじゃないの?」


「美弥子のこと言ってんなら、あれはそんなんじゃねぇよ。」


だったらきっと、ロクな関係ではないのだろう。


話を逸らそうとしたのか本当に煙草が吸いたいだけなのか、クロはあたしから体を離し、ベッドサイドに置いてあるそれに手を伸ばした。


微熱の所為なのか、先ほどのことの所為なのか、朦朧とする意識の中で、彼の吐き出した白灰色が部屋に漂い溶ける様を、ベッドへと伏せたままにあたしは、ただ眺め続けた。


シーツは綺麗な波紋を描き、まるで行為の終わりのようだけれど、でも、そんなものよりずっと、心の奥があたたかくなって。



「ねぇ。」


「ん?」


「あたしもう、こんな生活終わりにしたい。」


ゆっくりと、視線はこちらに投げられ、あたしの顔を確認した彼は、伏し目がちに口元だけを緩めた。


逃げたくないのだと言いながらも、あたしはずっと、人を恨むことでしか生きる術を見出せなかった。


それでももう、そんな風にして生きることにも、疲れ果てたのだ。


クロと一緒なら、それが出来るのかもしれない。



「じゃあ、俺が終わらせてあげる。」


力のない瞳でその言葉の意味を探そうと試みるも、煙草を灰皿へと押し当てた彼は、あたしの上へと再び覆い被さって来て。


首筋に吐息が掛かり、肩を上げた刹那、甘い疼きが触れた。


唇がそこからゆっくりと離れ、持ち上げられた瞳とぶつかれば、“これでオッケイ”と、そんな台詞。



「…な、に…」


「体売ったって、余計に苦しくなるだけだってわかってんだろ?
だからもう、俺がそんなことさせない。」


首筋にキスマークをつけられたのだろうことは、理解に易い。


指の先でそこをなぞれば、これでもう、体を売ることは出来なくなったなと、そう思わされて。



「お前が望むなら、何度だってつけてやる。」


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