向日葵
目を見開けば、次の瞬間には思わず笑ってしまい、そんなあたしに彼は、“笑っちゃダメじゃん”と、そんな台詞。


鎖骨の辺りに吐息が掛かり、くすぐったくなったあたしに、彼はキスをひとつ落とした。


互いの指先を絡め合い、彼の体を引き寄せるように腕を回せば、繰り返されるキスは、次第に深くなっていく。



「後悔、しない?」


不意に離れた唇から紡がれたのはそんな言葉で、落ちてきたひどく不安げな瞳に、あたしは小さく頷いた。


一度あたしの胸の中へと顔をうずめた彼は、少しの吐息を吐き出しながら、“すっげぇ緊張してる”と、そんな風に漏らして。



「あんま余裕ねぇわ。」


フッと口元に笑みを浮かべながらに呟かれたのはそんな台詞で、あたしの首筋に舌を這わせ、“けど、優しくしてやるから”と、そんな風に付け加えた。


まるで嫌がらせのように心臓の音は速度と打ち鳴らす大きさばかりを増しあたしは、浅く呼吸を繰り返してしまうのだけれど。



「俺のことだけ考えてりゃ、嫌なこと全部忘れさせてやる。」


落ちてきた言葉があたしの中に溶けた時、緩く結んだバスローブの紐は、いとも容易くほどかれた。


“夏希”と、あたしの名前が宙を泳ぎ、纏っていたものを脱ぎ捨てた彼のぬくもりに触れてみれば、ひどくあたたかいなと感じずにはいられない。


ずっと醜いばかりだと思っていたはずの行為を、クロのことを、あたしはこんなにも求めているのだと気付かされて。



「愛してよ、あたしのこと。」


自分でも驚くほどに、気付けばこんな台詞を紡いでいた。


だけども次の瞬間には恥ずかしくなり、視線を外せば、“伝わらない?”と、そんな言葉が吐息に混じる。


無意識のうちに呼吸は快楽の中で乱れ、上気した頬を隠すように手の甲をかざせば、容易くそれは退かされて。


深く絡まる舌は、奥深くに隠したものさえも見つけ出したようで。



「こんなに愛してんのに。」







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