向日葵
小一時間の洗車の後、黒光りしている自らの車を眺め、クロは満足そうに口元を上げる。


あたしはと言えば、付き合わされて若干疲労が溜まってしまい、肩が凝ったようにも感じているわけだけど。


“俺ちょっと、電話してくる”と、そう言った彼は携帯を片手に少し向こうに行ってしまう。


どうしたものかと仰いだ空は、本当に昨日の夜に雨が降ったのかと、思わず疑ってしまうほどに青く抜けるような色をしていた。



♪~♪~♪

どこか聞き覚えのある着信音だなとよくよく耳を傾けてみれば、それはあたしの携帯から流れていて。


やっぱりその存在を忘れていたのだが、お尻のポケットから取り出してみれば、ディスプレイには“智也”の文字。


そこでやっと、連絡することを忘れていたことに気付いたわけだが。



―ピッ

『久しぶりっすねぇ。』


「…いや、すいません。」


『良いけどね、もう。
家出はお前の専売特許だし、いちいち心配してても身が持たないし。』


通話ボタンを押すなり、少し怒っているような、それでいて呆れているような声色が耳に届き、思わず苦笑いを浮かべてしまうわけだけど。


ため息混じりの彼にもう一度“すいません”と形だけの謝罪の言葉を並べてみると、何故だか小さな沈黙が訪れて。



「ねぇ、アンタってあたしのこと好きだったの?」


『は?!』


その瞬間、飲み物でも飲んでいたのか電話口の向こうから、ゴホゴホと咳き込むような声が聞かれて。


思わずあたしは、汚いなぁと、どこか他人事のように思ってしまうわけだが。



『どこからどうなってそうなっちゃったのかは知らないけど、勘違いっしょ。』


「へぇ、良かった。」


仮定の話だとしても、やっぱりあたしは智也のことは、友達だとしか思えないから。


煙草を咥え、煙を抜けるような青い空へと吐き出してやれば、それは雲のように風に消える。


< 147 / 259 >

この作品をシェア

pagetop