向日葵
「……ごめん…」


「謝るくらいなら、最初からしなきゃ良いじゃん!」


何に対しての謝罪なのかもわからず、乱れた呼吸のままにあたしは、声を荒げてしまう。



『夏希のためって言ったら、笑う?』


『お前が俺をマジにさせたんだから、責任取れよ。』


『俺と一緒じゃ、そんなに不安?』


もう、無理だと思った。


あたしの心にだって、クロを許容出来るほどのスペースなんてないし、過去の痛みだって忘れることさえ出来ていないのだから。


震える吐息を吐き出しながら呼吸を落ち着けると、“ごめん”と、もう一度彼は言う。



「サチ、俺の大事だった人。
けど、全部終わったことだから。」


頭の上から落ちてきた、そんな言葉。


今更そんなことを聞かされたってどうにもならないし、先ほどの様子からして、全然過去になんてなっていないどころか、引きずってさえいるようにも見受けられて。



「…あたしには、関係ない。」


「俺が今大事にしてんのは、夏希だけだから。」


「だから、何?」


この人の言葉があまり意味を持たないことくらい、十分にわかっているつもりだ。


本当は余裕もないくせに、無理やり平静を装ってるだけだということくらい、手に取るように分かる。


だって、まるであたしと同じなのだから。



「もう、アイツのことも考えねぇから。
それで良いんだろ?」


ひどく突き放すようなため息混じりの言葉を投げ、彼はきびすを返したように寝室の扉を開けた。


開けて、そしてひとり、逃げるようにそれを閉めてしまう。


残されたあたしは、唇を噛み締めることしか出来ないまま、再び込み上げてきた涙を堪えた。


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