向日葵
瞬間、唇を噛み締めて智也を睨み付けてみれば、彼は煙草を咥えるようにしてこちらを向かないまま。


まるで逃げていると言われているようで、悔しくなるばかり。



「好きな男と付き合ってて、何が不満?」


「別にあたし、付き合ってないから。」


「は?」


やっとこちらに向いたと思えば、それは驚いた顔で、“意味わかんねぇし”と、そう彼は付け加える始末。


言葉のままの意味で、あたしはクロからそんなことを言われてもいないってだけのことなのだが。



「あたしもしかして、神様ってやつに虐められてんのかも。」


「それは、俺に慰めの言葉を求めてる?」


「かもね。」


そう、自嘲気味に口元だけを緩めると、“それは重症だな”と、そんな台詞。


煙草を灰皿へと押し当ててみれば、ため息混じりに吐き出した最後の煙は、窓の外へと流れるように消えていく。


昨日の夜に自らで爪を立てた腕には今も赤く痕が残っていて、それが思い出したように痛みを放つのだから、嫌になる。



「ごめん、降りるわ。」


「どうすんの、これから?」


それは暗に、今後のことを言われているようで、“歩きたい気分なの”とだけ返しあたしは、信号待ちで停車している智也の車から降りた。


彼もそれを引き留めることはせず、扉を閉めてみれば、信号は青に変わり、彼だけを乗せたそれは走り去った。


これからどうすれば良いのかなんてそんなのわかるはずもなく、やっぱりあたしは恋愛なんて不得手なんだと思わされるばかりで。


気付けばここがどこなのか分からない場所で、それはあたしの立ち位置そのものを表しているようだと思ってしまう。


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