向日葵
「サチが行方不明になったのはそれからすぐのことで、その日を境に龍司は俺に、絶対に意見することなんてなかったのに。」


“キミが原因?”と、彼は冷たくあたしの頭の上から言葉を投げてきて。



「辞めたがってるって報告受けて、ぶっ飛んで帰ってきたんだけど。
そしたら驚いたことに、女の子と一緒に暮らしてるとか言うしさ。」


“ねぇ、別れなよ”と、そう言いながら、あたしと同じ目線の高さまでしゃがみ込んだ。


恐る恐る瞳を持ち上げてみれば、冷たい彼のそれとぶつかって。



「体売ってるキミと、人間じゃない龍司はお似合いなのかもしれないけどさ。
困るんだよね、勝手なことされちゃうと。」


「…何で、それを…」


「そんなの、調べればすぐにわかることじゃない?」


玄関のタイルへと煙草を擦りつけながら、彼は最後の煙を吐き出した。


どんなに足掻いても決して過去は消えることはなく、言葉ばかりが突き刺すようにあたしをえぐって。



「どうしても別れてくれないなら、別の手段がないわけじゃないけど。
でも、キミを傷つけたら、今度は俺が刺されそうだし。」


“そんなのお互い嫌じゃない?”と、そんな風にして口元が持ち上げられた。


この状況で何をされるかくらい容易に想像が出来てしまって、意志とは別に震えが止まらなくなって。



「…やめっ…」


「へぇ、怯えてる。
龍司の前でもそうやって泣いてるの?
アイツ、随分面倒な女と付き合ってるんだね。」


「―――ッ!」


面倒な、女?


言葉にしてみればひどく簡単で、その瞬間に頭の中を占めたのは、クロのいつもの悲しげな瞳。


本当のあの人に、あたしを受け入れるほどのスペースなんて残されていないのだと、ずっと思っていたはずじゃないか。



「別れて、くれるんでしょ?」


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