向日葵
いつの間にか外の世界を濡らしていた雨は止み、肌寒さを覚えながら身ひとつでクロの家から出たのは先ほどのこと。


気付けば駅裏の地下街に足を踏み入れていて、下手くそな弾き語りの兄ちゃんの失恋ソングが、人通りの少なくなったその場所に嫌に響く。


下手くそ過ぎて、それでも一生懸命に歌う兄ちゃんの声に耳を傾けていれば、何故だか今更になって涙が溢れて。






『…過去と、向き合いたいんでしょ?』


『終わってんだろ、俺ら。
ならもう、何も言うことなんてねぇから。』


投げられたのは、ひどく冷たい瞳だった。


すぐ傍に居るはずなのに、なのにこんなにも遠く感じてしまう。


先に突き放したのはあたしの方だから、本当は何も言えないはずなのに。



『…ク、ロ…』


『出てけよ。
これ以上一緒に居たら、俺、お前のこと殴りそうだから。』


ならばいっそ、殴ってくれれば良かったのに。


そしたらあたしは、クロの前で泣くことが出来たのに。


なのに彼は、拳を握り締め、そしてきびすを返して扉を開けた。


あたしとクロの終わりを意味するそれはまるでスローモーションのように静かに閉められ、その後ろ姿は完全にあたしの視界から消えたのだ。


好きだからとか、もうそんな簡単なことでは片付けられなかった。


だからこれで良くて、あたしが傷ついたりなんかしちゃダメなのに、と。


次にクロが帰ってくるより先に、早くこの場所から居なくならなければと、そう思いながら数時間ぶりに立ち上がれば、ひどく体中が軋んでいた。


それでも心の痛みに比べれば幾分マシで、そのままフラフラと彼の部屋から出て、今に至るのだ。



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