向日葵
握り締めていた携帯を開き、眺め続けていたために覚えてしまった番号をプッシュし、通話ボタンを押した。


呼吸を落ち着けたくて煙草を咥えれば、幾度目かのコールの後、“はい?”と、そんな声が耳に響いて。



「アイツと終わらせたよ、相葉サン。」


『…夏希、チャン?』


まさか、あたしが電話をするなんて思ってもみなかったとでも言いたげな声色は、幾分困惑しているようにも聞こえた。


だけどもそれは、すぐに“へぇ”と言った嬉しそうなものに変わり、彼が今、どんな顔をしているのかなんて容易に想像出来るのだから、嫌になる。



『けど、それを言うためにわざわざ?』


「終わらせてやったんだから、もうあたしに関わらないでね、って言っとこうと思って。」


『随分と人聞きの悪いこと言うね。
真実を教えてあげたんだから、逆に感謝して欲しいくらいなのに。』


ククッと笑った声が電話口から響き、嫌悪感さえ抱いてしまうのだけれど。


煙を吐き出しながら言葉を飲み込めば、下手くそな歌同様に下手くそなギターの音が、うるさくて堪らないと感じてしまう。



『まぁ、上出来ってところだね。』


そんな言葉に唇を噛み締め、何も言わずにあたしは、電話を切った。


所詮あたしなんかが幸せになれるとは思わなかったけど、でも、幸せになりたいと願っていた。


煙草を辞めたら、もう絶対に体を売らなきゃ、幸せになれるのかな、なんて。


そんなことさえ考えてしまう自分がひどく滑稽で、崩れ落ちるようにその場所にしゃがみ込めば、虚しさに包まれる一方だった。


もう何度、あたしは逃げ出しただろうか。


居場所がないのはいつものことなのに、なのに今度ばかりは結構ダメージが大きくて、当分立ち直れそうにないなと、そんなことを思わされた。


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