向日葵
「夏希?」


突然に頭の上からあたしの名前を呼ぶ声が響き、恐る恐る顔を上げた瞬間、目を見開いた。


視線を泳がせたものの、戸惑うあたしに見向きもせず、スウェットを着ただけの寝巻のような格好の彼は、隣へと同じように腰を降ろしてしまって。



「何かあった系?」


前よりも幾分髪が伸び、カチューシャでオールバックにした頭が、そんな問い掛けと共にこちらに向いた。


肩を上げて体を強張らせるあたしに、首を傾けながらに顔を覗きこんできて。



「まぁ、そりゃ俺なんかとはもう、話もしたくないんだろうけど。」


「…陽、平…」


何でこんな時に、陽平なんかに会ってしまったんだろうかと、今更そんなことを思っても、もう遅いのだけれど。


答えを聞くことを諦めてしまったかのように彼は煙草を咥え、だけどもこの場から立ち去る気配は皆無のようで。



「俺、パクられるっぽいんだわ。
多分今も、内偵入ってるっぽいし。」


「…えっ…」


「だからまぁ、お前とゆっくり話すのも、これが最後かもしんねぇし。」


言葉とは裏腹に、自らを鼻で笑うような顔に、思わず戸惑ったように視線を泳がせたのだけれど。


“んな顔すんなよ”と、彼はそう言いながら、視線だけを向かいの下手くそな歌を歌う兄ちゃんへと向けて。



「男と何かあったんしょ?」


「…そんな、こと…」


「俺も一応、お前と一年半も一緒に暮らしてたわけだし。
こんなん言うキャラでもねぇけど、夏希はすぐ顔に出るしさ。」


「…何、言って…」


「未だに好きな女がこんなとこでちっちゃくなってたら、見過ごせないって話。」


陽平が立ち昇らせる白灰色がラブソングに溶けた時、思わずあたしは視線を逸らしてしまった。


背をつく壁は冷たさを増したようで、何も言えずにあたしは、言葉を詰まらせてしまう。


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