向日葵
「聞かせてよ、サチさんとのこと。」


クロがシフトをドライブに入れるのを確認したあたしは、そんな言葉を投げた。


一瞬、彼の瞳は驚いたようにこちらへと向いたのだけど、でも、すぐにそれは正面へと戻されてしまって。



「聞いてもつまんないよ?」


「良い、それでも聞きたい。」


多分、こんなにはっきりとクロのことを問うたことは今までになく、幾分心臓の音が早くなっている気もするのだが。


口元を緩めただけの彼は、煙草を咥えるようにして小さくため息を零した。



「最初、馴れ馴れしくてウザいって思ったのが、第一印象。」


そうやって言葉を紡ぐクロの顔はどこか懐かしそうで、あたしはただ、そんなものを見つめることしか出来なかった。



「付き合い始めたのは、俺が18になったばっかだったかな。」


「本気だった?」


「本気だったよ。
それに、すっげぇ幸せだとも思ってた。
ただ、サチを幸せにしてやりたいと思えるほど、俺は大人じゃなかったんだ。」


白灰色を漂わせるように吐き出しながらクロは、それにため息を混じらせた。


懐かしさの中に、どこか後悔しているような色を含んだ顔にも見える。



「サチは俺より5つ上だったし、しっかりしてると思ってたから。
だから、甘えすぎててダメになっちゃったんだと思うけど。」


「…甘え?」


「そう、仕事忙しかったし、ロクに話も聞いてやらなくてさ。
それで毎日が喧嘩みたいになって、だから距離置くことにしたんだけど、結局は俺、アイツと向き合うことから逃げてたんだと思う。」


そう、彼は自嘲気味に口元だけを緩めた。


緩めて、そして短くなった煙草を消してみれば、小さな沈黙の帳が下りて。



「もう完全に、俺らの向いてる方向は違ったんだ。」


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