向日葵
ひどく憂いを帯びた瞳は、あたしの向けているそれを捕えることはなかった。


こんな顔をさせてしまうのならば、聞くべきではなかったのだろうかと、そう思わされてしまうのだが。



「他の男との間に子供が出来たって聞かされた時には、怒り通り越してショックってゆーか?
つか、自分自身が情けなさ過ぎて嫌になったよ。」


「…じゃあ、何で…」


「サチが泣いてるの、初めて見てさ。
だから別に子供に罪はないし、じゃあ、俺の子として育てようよって言ったの。」


きっとそれは、クロだから導き出した選択だったのだろう。


自分自身のために生きるより、人のために生きることで、自らの存在価値を見出せるのが人間だから。



「サチは最後まで同意することはなかったけど、でも俺、ヨシくんに頭下げに行ったんだ。
そしたらあの人、寝耳に水って感じで、さっきみたいな顔してすっげぇ驚いてて。」


“で、死ぬほど殴られた”と、そう彼は肩をすくめた。


外の明かりが淡くクロの顔を照らし出し、何となく綺麗な横顔だなと思わされるのだけれど。



「本気でそう思ってんのわかってもらおうと思ったんだけど。
でも逆にサチは罪悪感感じちゃって、そのまま行方不明。」


「…探さなかったの?」


「探せるほど、俺はサチのこと知らなかった。
ヨシくんはさっさと見つけてたみたいだけど、俺には当然のように教えてくれないしさ。」


“ホント、ただのガキだったから”と、そうやって付け加えた顔はやっぱり少しばかり悲しそうにも見えて。



「それからのヨシくんは前にも増して血も涙もない感じだし、俺も後ろめたい気持ちがあったから、言われたことに逆らうつもりもなかったしさ。」


「…そんなんで、良かったの…?」


「楽だったんだよ、言われた通りに動くだけだったし。
色んな事考える暇もなく働いて、そしたら俺も満足だし、ヨシくんも満足だし、って感じで。」


“だから、それで終わり”と、まるで締め括るような台詞と共に、やっとあたしへと瞳が投げられて。


そこに後悔と言った文字は見えるが、それでも未練なんてものには当てはまらないような顔をしていた。


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