向日葵
「さて、これからどうしようか。」


真っ暗に染まった街の中を走る車内、クロはいたずらに口元を緩めた。


“これから”と言うのが暗に何を指しているかくらいはすぐに察しはつくのだけれど、でも、“どうしようか”に対しては、答えを持てずに居る。


だけどもそれはまるで独り言のように呟かれたので、あたしはさして気には留めなかったわけだけど。



「とりあえず、仕事辞めれた記念に旅行でも行く?」


「そんな余裕ぶってて大丈夫なの?」


「それは、お金の心配?」


「…それもある、けど。」


何となく言葉を濁すあたしに彼は、口元だけを緩めるいつもの仕草。


こんな顔をしてるってことは、あたしの意見なんてあってないに等しいのだろう。



「どっか安いアパートに引っ越してさ、そんでお前と普通に暮らすのも悪くねぇかもな、って。」


「…えっ…」


「ははっ、驚いてる。」


「…いや、だって…」


ひどく混乱してしまったあたしに彼は、“嫌?”と、そう問うてくる。


その言葉に急いで首を横に振れば、煙草を咥えるようにしてクロは、伏し目がちにまた口元を緩めた。


だけどもまるで夢物語のようで、想像すれば、そこには普通の幸せが詰まっている気がするのだから。



「…あたしのこと、幸せにしてくれるの…?」


「それ、逆プロポーズ?」


問い返された言葉の意味に、思わずあたしは顔を赤らめてしまったわけだが。


“モチロンでしょ”と、そんな言葉が続いて投げられた時には、本気で泣きそうになってしまった。


二人、ちっちゃな夢を馳せ、クロとぬくもりを分かち合えたらどんなに幸せなのだろうと、そんな希望が一筋の光となって注いでいる気さえしていたのだ。


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