向日葵
それから、クロに邪魔されながらお化粧をしたりと身支度を整えていれば、出発の9時が近づいていた。


近頃雨ばかりだった空は幸運にも晴れ間が見えていて、思わず窓の外を眺めながらあたしは、笑顔になってしまう。



♪~♪~♪

忘れ物はないかと最後に部屋を見渡していた時、鳴り響いたのはあたしの携帯の着メロだった。


こんな時に誰だろうと、それを持ち上げて確認してみれば、ディスプレイには久しぶりに見た“智也”の文字。



―ピッ

「どしたの?
てかあたし忙しいし、智也と遊んでる暇ないんだけど。」


『夏希、聞け。
つか、落ち着けよ、お前。』


「……は?」


適当に通話ボタンを押してみれば、電話口の向こうからの言葉は意味不明。


一体何を言ってるんだろうかと思いながら、“落ち着くのはアンタじゃん?”と、それだけため息混じりに返したのだけれど。



『さっき、かーちゃんから電話あってさ。』


そんな前置きの後に続けられた言葉に、思わず耳を疑ってしまって。


瞬間に震えが止まらなくなり、あたしの手から抜け落ちた携帯は、フローリングへと音を立てて転がった。



「夏希?」


そんなあたしに気付いたのかクロは、不審そうに眉を寄せていて。


落ちたあたしの携帯を拾い上げ、それを耳に当てて“何事?”と、電話口の向こうの智也に問う。


それでもそんなものさえあたしの瞳に映ることはなく、呼吸ばかりが乱れるように生理的な涙が溢れた。


今更あたしには関係ないのだと、そう言い聞かせているはずなのに、なのに震えが止まることはないまま。


腕に爪を立て、唇を噛み締めているはずなのに、まるであの夢の続きに立っているような感覚に陥ってしまう。



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