向日葵
「…あたし、そんなのっ…」


殺してくれないのなら、あたしが殺してやるんだと思っていた。


でも、当然そんなことは出来ないし、ましてやそんな勇気なんてなかったからあたしは、全てから逃げ出したのだ。


確かにキッカケは梶原だったのかもしれないけど、でも、あんな夢ひとつで冷静ではいられなくなるのが、何もかもを表している。


あたしは未だ、両親が怖いんだ、と。



「…クロ、早く…旅行…時間ないし…」


涙を混じらせながら必死で笑った顔を作ってみたものの、きっとそれは引き攣っていたのだろう、彼はそんなあたしを強く抱き締めた。


抱き締めて、そして“落ち着けよ”と、そんな低くも力強い声があたしの耳元に落ちる。



「…だって、死んだって当然だし、あたしには関係ないし、それにっ…」


並べた言葉に一切の説得力がないことくらい、あたしにだってわかっていた。


それでも何かを言われるより先に、平気な振りを装っていたかったんだ。



「夏希が会いたくないなら、俺はそれで良いと思うよ。」


「…だったら、早く…」


「けど、それじゃ一生過去に怯えることになるよ?」


「―――ッ!」


そんな瞳があたしを射抜き、ただ何も言えなくなった。


代わりに涙ばかりが溢れ、“泣くなよ”と彼が、悲しげにあたしのそれを拭う指先は、少しばかり震えていて。



「何があっても俺が居るから、だからちゃんと答え出せよ。」


「…そん、なの…」


そんなの、出来るはずがない。


会わないままでいることが良いことかどうかはわからないけど、でも、会いに行って過去の記憶が浄化されるなんて保証は、どこにもないのだから。


いつもは優しいはずのクロの言葉なのに、今はどうしようもないほどに苦しくなる。



「俺、お前に言えなかったことがある。」


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