向日葵
「……え?」


「俺、親父のこと刺したんだよ。」


こんな時に、クロまで一体何の冗談だと言うのだろう。


あたしのための嘘だったとしても、それじゃあまりにも出来が悪い。



「毎日毎日怖くて堪んなくて。
だから15の誕生日の日、俺は親父を刺して家を飛び出したんだ。」


「…嘘、でしょ…?」


「嘘じゃない。
俺は、そうやってしか逃げられなかったから。」


そう言ってクロは、自らの手の平へと視線を落とした。




『あんなののどこが人間?』


『人殺しまがいの男の子供なんか、ゾッとするよね。』


『でも、キミを傷つけたら、今度は俺が刺されそうだし。』


不意に、あの日の相葉サンの言葉が脳裏に蘇れば、まるでパズルのピースが揃うように、全ての合点がいく。


そしてそれは、クロの言葉が紛れもない事実だと言うことを表していて。




「幸い親父は生きてて。
警察が来たんだけど、ヨシくんが弁護士つけてくれて、そのまま正当防衛が認められたんだ。」


“キモチワルイだろ?”と彼は、そう自嘲気味にあたしに瞳を投げた。


首を横に振るだけの簡単な動作さえも出来ず、ただあたしは動けないまま。


それでも親を殺してやりたいと思う気持ちは、あたしにだって痛いほどわかるから。



「…もう、言わなくて良いからっ…」


あたしのためにだとわかっているからこそ、やっぱり涙が溢れて。


そんなあたしに彼は、驚いたように一瞬瞳を大きくしたのだけれど、それでも彼が何か言うより先に、その体を抱き締めた。


本当は弱いくせに、それでも過去から逃げないクロは、本当に向き合おうとしているのがわかったから。



「…一緒に、居てくれるんでしょ…?」


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