向日葵
怖くないと言えば嘘になるし、あたし自身が受け止めて向き合えるかと問われれば、断言なんて出来ないけど。


小さな震えは、あたしのものなのか、クロのものなのか。



「…俺のこと、何とも思わないの…?」


「だってクロは、あたしのことわかってくれたから。」


そんな風に言ったあたしに彼は、諦めたような、それでいて安心したような顔であたしを抱き締め返してくれた。


しこりのように凝り固まった過去は、いい加減、溶かしてしまわなければいけないんだ。



「もし、夏希が復讐とか考えてんなら、俺は絶対行かせない。
お前にだけは、俺みたいに間違えた方法なんか選んでほしくないから。」


「大丈夫。」


もう、大丈夫だ。


だってあたしにはクロが居てくれるから、だから何があったとしても、崩れ落ちたりなんかしない。



「じゃあ、一緒に乗り越えようね。」


そう、あたしに瞳を向けたクロは、小指を差し出した。


口元を緩めることは出来なかったけど、それでもコクリとだけ頷いてそれへと小指を絡めると、“約束だよ”と彼は、そこに唇を添えた。


指切りなんて子供みたいだけど、でも、クロがそこに居てくれるのだという確証めいて感じたんだ。



「行こう、会いに。」


きっとそれは、あたし達にとって旅行なんかよりもずっと大切な選択で、小さくとも一歩を踏み出すキッカケになる気がした。


心臓は未だざわついていて、吐き出した吐息は僅かに震えていたけれど、それでもあたしはクロと手を取り合って家を出たんだ。



『逃げるんでも忘れるんでもなく、過去と向き合う、って言ってんの。』


あたしももう、逃げたりなんかしないから。


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