向日葵
「飲み物買ってきてやるから、ここで待ってろよ。」


幾分人の増えた廊下の隅の長椅子へと腰を降ろしたあたしに、それだけ言ったクロは自販機に向かって歩き出した。


まだ少し、先ほどのことを現実と捉えるには時間が掛かり、背中を預けるようにため息を吐き出してしまう。



「なっちゃん!」


顔を向けてみれば、明らかに心配していたのだろう顔した香世ちゃんは、戻ってきたあたしの方へと小走りで駆け寄ってくる。


そんな姿に口元だけを緩めれば、彼女は幾分安堵の表情を向けてくれた。



「お父さん、何の病気なの?」


「脳梗塞、って言ってね?
脳の血管が詰まっちゃう病気なの。」


あたしの隣へと腰を降ろし、そう香世ちゃんは眉尻を下げた。


さすがのあたしでも、テレビとかで聞いたことがあるし、それが大変な病気なんだと言うことは理解出来たのだが。


やっぱり“そっか”なんて言うのみで、心から生きていて欲しいと願うことは出来なかったけど。



「なっちゃん、良い彼捕まえたわね。」


「…そう?」


「そうよ。
母親としては、やっぱり智也とくっついて欲しかったし、なっちゃんに本当の娘になって欲しかったけど。
でも、龍司さんがなっちゃんのこと支えてくれてるの見て、私も嬉しかったもの。」


クスリと笑みを零した彼女にあたしは、何だか照れくさくて曖昧にしか返せないのだけれど。


それでも、“良かったわ”と、まるで本当のお母さんのような顔をしてくれた。



「私ね、本当は女の子が欲しかったから。
だからなっちゃんのこと、自分の子みたいに思うの。」


「…香世、ちゃん…」


「これからは、いつでも戻って来なさいね。」


そんな彼女の力強くも優しい言葉に、何だか涙が溢れてしまいそうで。


思わず抱きつけば、香世ちゃんはまるで子供をあやすように、あたしの背中をトントンとした。


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