向日葵
「何かさ、気が抜けちゃった感じ。」


車へと二人乗り込み、そして煙草を咥えたのだが、本当に体中の力が抜けてしまったように感じてしまうのだが。


苦笑いを浮かべるあたしに、だけども“そりゃ困ったな”と彼は、さほど気に留めている気配はない。



「復讐とかももうどうでも良くなっちゃったし、これからどうしようかなぁ、って。」


「俺も、次の仕事どうしようか。」


「…考えてたの?」


「まぁ、一応?」


何で疑問系なんだろう、とは思うのだが。


折角の旅行も取り止めになってしまったことだし、手持ち無沙汰のままに車は走る。



「とりあえず、飯?」


「そだね。」


少なくともクロは、当面のお金の心配なんて皆無な様子で。


本当に一体何を考えているのかなんてわかんないんだけど、でも、今度は好きな仕事をして欲しいと思うから、あたしは何も言わないまま。


流れる景色はどこも見覚えがあったのだが、そこにあまり良い思い出が蘇ることはなかった。


この街が好きかと問われれば、決してそうではないけど、でも、智也や香世ちゃんと出会えただけでもあたしにとっては奇跡だったのだろう。



「お花、買っとけば良かったね。」


「花?」


「そう、お父さんがもしも目を覚ました時にさ。」


「そうだね。」


クロの言葉はそれだけだったけど、でも、きっと何かが伝わっていたのだろう、彼は伏し目がちに口元を緩めた。


香世ちゃんが言う結婚とかウエディングドレスとかって全然想像出来ないけど、それでもこんな風にずっと、彼に隣に居て欲しいと思った。


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